動物の主との交渉 [様々な仕事の方法]

狩猟を中心とする部族文化にとって、動物がいなくなる、少なくなることは、その部族の生存を左右する重大な出来事です。

シャーマンは不漁の時、「動物の女主(動物の母、原母)」のもとを訪れて、不漁の理由を聞きだし、それを解決します。
ただし、牧畜民などで、「動物の主」が男性になる場合もあります。

ラスムッセンが紹介したイヌイットのシャーマンの例を紹介します。
これは、アザラシやセイウチなどの不漁が発生して、その主である「海の精霊」のもとに行きました。

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*人間の罪のために髪の毛がもつれた海の霊の髪をきれいにするイヌイットのシャーマン(シャーマンの世界)

部族の神話によれば、この海の精霊は、父親に指を切り落とされて、その指から海の生物を生み出しました。
このように、食料となる動物や植物が、神霊の体の一部やその遺体から生まれた、とする神話は、世界に広く存在します。

まず、シャーマンは部族のメンバーの前で、「守護霊」に旅を助けてくれるように懇願します。
そして、呪文とともに海底に通じる管を落し、トランス状態で海底に降りて行きます。

海底では、恐ろしい3つの石が激しく飛び回り、「海の精霊」の住処に通じるトンネルは獰猛な犬に守られています。
それに、「海の精霊」の父親も邪魔をします。
ですから、シャーマンはこれらの障害を越えて進まなければなりません。
「海の精霊」の家に入ると、ランプと海の生き物が集まった池があります。
ですが、「海の精霊」はそれらに背を向けて座ることで、怒りを示しています。

彼女の髪の毛はもつれ、汚物によって体が埋もれかかっています。
彼女の汚れは人間が犯した罪が原因になっています。

シャーマンは優しく彼女の向きを直し、髪と体をきれいに整えると、彼女は穏やかになりました。
彼女に不漁の原因を聞くと、村の女性が流産を隠し、煮た肉を禁じたタブーを破ったからだと答えました。
シャーマンが彼女をなだめると、彼女は動物達を池から海に放ちました。
シャーマンは地上に戻って、皆の前で、「言葉が現れるであろう」と言います。
すると、タブーを破った者が、それを告白しました。

流産をすると皮製品を捨てなければならないという規則があるのですが、彼女はそれが嫌で流産を隠していたのです。
部族社会では、タブーは神話的秩序に由来するもので、これを破ることは世界の調和を崩すことになるのです。


この話ではシャーマンが「海の精霊」の汚れやシラミを落としますが、この落とした垢やシラミが動物に変化することもあります。
ちなみに、髪の毛のシラミのテーマは、「古事記」のオオクニヌシとスサノオの神話にもあります。

また、この話では、動物達の魂が池の中の「池」の中にいますが、これが「袋」、「壺」などである場合もあります。
いずれにせよ、「動物の女主」の能産性の象徴です。

また、部族によっては、シャーマンが「動物の女主」と戦って、動物を盗む、あるいは、逃がす場合もあります。
ちなみに、農業文化になると、種を盗むという話になります。

また、シャーマンが「動物の女主」と性的関係を持つ場合もあります。
「動物の主」が男性の場合、シャーマンの妻が関係も持つ場合もあります。

また、「動物の女主」に夫がいて、その夫がシャーマンを飲み込み、吐き出すイニシエーションを課す場合もあります。

この「動物の父」による飲み込み・吐き出しは、人間が動物を食べてその魂を「動物の女主」のもとに戻すことと、ちょうど対称的(霊界→地上/地上→霊界)なので、同一の行為なのです。
もう一つ書けば、シャーマンと「動物の女主」との性行為は、人間の猟師が矢で動物を刺し殺すことと、ちょうど対称的(霊界→地上/地上→霊界)なので、同一の行為なのです。

この話のタブーと不漁の関係は、はっきりとは分かりません。

ただ、不漁は動物の魂の地上への送ることの停滞です。
流産は人間の魂を地上で受け取ることの停滞で、肉と煮ることや革製品を使うことは、動物の魂を霊界へ送り返すことに関わる行為です。

これらが、霊魂の循環に関わる問題としてつながっていることは確かです。

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