動物の女主 [シャーマニズムの概要]

狩猟文化におけるシャーマンの意味を考えてみましょう。
これは、「シャーマンの仕事」のページであげた1の不猟・不漁・不作の問題の解決に当たるものです。 部族にとって最大の問題は、食料の調達です。

獲物となる動物には、その生死を司り、産み出する神的存在である「動物の主(動物の母、父)」がいて、そのもとからやってくると考えられました。
狩猟文化では、この主はたいてい女神であって、地母神や大母的存在です。
多くは山や海中の洞窟などに住んでいます。

シャーマンは部族の代表として、「動物の女主」と交渉をして、獲物を確保する役割を持っているのです。

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*人間の罪のために髪の毛がもつれた海の霊の髪をきれいにするシャーマン(シャーマンの世界)

そのための一つは、供犠の儀礼で獲物の動物の魂を送り返すことです。
正しく動物の魂を「動物の女主」のところに送り返すことは、「動物の女主」が動物を人間のもとに送り出すための絶対条件です。

シャーマン自身の体を、霊的ヴィジョンの中で「動物の女主」に捧げることもあります。
キリストや北欧神話の主神ヴォータンのように、樹(や十字架)に吊り下げられる神が多くの神話に登場しますが、これはシャーマンのこの行為から来ています。
この儀礼においては、シャーマンは人間の代表であると同時に、供犠とされる動物とも同一化されるのです。

動物は、人間が食べることで、この世で死んで、あの世に帰ります。
これと反対に、シャーマンはあの世で自らを犠牲死して、この世に戻ります。

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*タロットの吊るされた男はシャーマン起原

さらに、シャーマンは豹や虎、熊などの肉食獣とも同一化されます。
肉食獣は動物を捕まえて食料とする点では人間と同じで、人間よりすぐれた狩人です。
ですから、狩人の代表でもあるシャーマンは、肉食獣を真似て、それに変身するのです。

肉食獣も「動物の女主」の支配下にあって、主を守護します。
女神の両脇にライオンがいる像が多数見つかっていますが、これは「動物の女主」とそれを主語する肉食獣です。
狛犬の原型もこれでしょう。

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*旧石器時代まで遡れるトルコの地母神像

上に書いたように、シャーマンは自分を犠牲にしたり、つくしたりして祈願するだけではなくて、「動物の女主」と格闘したり命令することもあります。
また、彼女が持っているは動物の魂の入った袋から魂を盗んだりして、動物の魂を手に入れることもあります。
「ジャックと豆の木」のように、他界から何か(金の卵を産む鶏など)を盗んでくる神話や童話はこのシャーマンの行為から来ているのでしょう。


また、シャーマンは「動物の女主」と交わって、豊穣を保証することもあります。
ここには、「狩猟」と「性」の不思議な象徴的なつながりがあります。

つまり、シャーマンが男根をもって「動物の女主」と交わることとが、狩人がヤリをもって動物を狩ることと象徴的に同一化されるのです。
前者は動物をこの世にもたらすこと、後者は動物をあの世に返すことで、正反対ゆえに同じなのです。

このように、「シャーマン=狩人=肉食獣=男性」/「動物の女主=獲物=女性」という二原理の関係であって、「男根=ヤリ」/「生殖=狩り・食事」なのです。

洞窟の儀礼では、洞窟=「動物の女主の子宮」であって、洞窟に入ることは「動物の女主」との性交の象徴です。
シャーマンは牛や豹といった動物の姿に変身して、雌牛や牝豹の姿の「女主」と交わることもあります。
「動物の女主」は、動物の雌とも同一化されるのです。

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