アーノルド・ミンデル [ネオ・シャーマニズム]

アーノルド・ミンデルが発展させた「プロセス指向心理療法」は、彼の独創的なアイディアによって、心理療法を新しい次元へ、多方向へ、統合的に拡張したものです。
また、それは、ネオ・シャーマニズムやトランス・パーソナル心理学と方向性を共有し、それらを包含しています。

ミンデルは、シャーマニズムの影響を受けていて、「シャーマンズボディ」という著作もあります。
ミンデルの言う「プロセス」とは、その本質において、シャーマンがトランス状態の身体で体験するリアリティでもあります。

プロセス指向心理学は、イメージや言語以前の微細なリアリティに対する直観を、24時間ずっと自覚し続けることを目指します。
ミンデルはそれを「24時間の明晰夢」と表現しますが、それがチベット仏教の「大いなる覚醒」、ヒンドゥー教の「サハジャ・サマディ」、タオイズムの「無為」であるとも書いています。
ですが、これは、当ブログの表現で言えば、「高等シャーマニズム」や「高位イニシエーション」が目指す境地でもあると思います。


このページの記事は、姉妹サイトの記事「アーノルド・ミンデルのプロセス指向心理学」と「プロセス指向心理療法のワーク」を、シャーマニズムをテーマとして再編集してまとめたものです。

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<ミンデルの歩み>

アーノルド・ミンデルは、1940年にニューヨークで生まれ、マサチューセッツ工科大学で応用物理学を学びました。

ですが、心理学への転向を志し、スイスのチューリッヒにあるユング研究所で分析心理学を学びました。
そして、1970年には、オハイオ州のユニオン大学院で博士課程修了し、その後は、ユング心理学研究所で分析家として活動しました。

ミンデルは、「身体症状」などを「夢」と同一のものとして捉え、それが自我を相対化する知恵であると考えるようになりました。
ミンデルは、これを「ドリームボディ」と名付けました。
そして、1980年代初頭に、同僚と共に「プロセス指向心理学」のワークを始めました。

1980年代後半には、妻のエイミーとアメリカに戻り、1990年、オレゴン州ポートランドに、「プロセス・ワーク研究所」を設立しました。

その後も、ミンデルは、次々と新しい観点、新しいワークを生み出し、自身の心理療法を進化させ、著作も次々と出版し続けました。

1993年には、「シャーマンズボディ」を出版し、カスタネダを含むシャーマニズムの思想とプロセス指向心理学を統合しながら、「ドリームボディ」を環境内の存在としての「シャーマンズボディ」に拡張しました。

2000年には、「24時間の明晰夢」を出版し、イメージ以前の微細な(センシェント)直観的な次元の気づきを常態化する「24時間の明晰夢」を提唱しました。

そして、2001年には、プロセス指向心理学を体系的した「プロセス指向のドリーム・ワーク」を出版しました。

また、2007年には、プロセス指向心理学を、量子力学、タオイズム、シャーマニズムと統合して「道の自覚」をテーマとする「大地の心理学」を出版しました。


<プロセス>

ミンデルは、環境とつながった心身が、全体として変化する体験の流れを、「プロセス」と呼びます。
ミンデルは、それを「タオ」とか「大河の流れ」とも表現するように、それが人間を越えた環境内の存在であることを強調します。

ミンデルは、2つの「プロセス」を区別します。
自分が同一化している「一次プロセス」と、排除して周縁化された「二次プロセス」です。
そして、2つのプロセスを隔てる壁を「エッジ」と呼びます

プロセス指向心理療法のワークでは、「二次プロセス」を感じ、それになったり、それとコミュニケーションをとったりします。

「二次プロセス」になかなかアクセスできない場合は、「エッジ」を対象にして、同様のワーク行います。
「エッジ」を橋とイメージしてそれを渡ることを想像したり、「エッジ」を擬人化してコミュニケーションしたりするのです。
「エッジ」を渡る時に、人は変性意識状態になります。

シャーマニズムの観点から見れば、「一次プロセス」は日常の自己、「二次プロセス」はトランス状態の自己です。
「エッジ」は、「地下世界」や「天上世界」に至るための「トンネル」や「穴」のような存在でしょうか。

プロセス指向心理療法では、このように、自己が同一化する対象を変える「布置の変化」がワークの特徴です。

「二次プロセス」とワークすることは、「一次プロセス」を相対化し、両者を統合することになります。
逆に言えば、「二次プロセス」として現れるものは、「一次プロセス」を中心にして生きることを批判し、修正を促すものなのです。
後述するように、たとえそれが病気のような身体症状であっても、一種の知性であると受け止めます。

シャーマニズムの部族社会の世界観では、本質的には「二次プロセス」を重視します。
シャーマンや部族のイニシエーションは、「二次プロセス」を体験し、それを中心に自己を組み替えるためのものです。


<リアリティの3階層>

プロセス指向心理学では、3つの意識、3つのリアリティの階層を考えます。

・合意的現実  :覚醒時の合理的現実、一次プロセス
・ドリームランド:ドリームボディ、二次プロセス中心
・ドリーミング :センシェント、エッセンス

「合意的現実(コンセンサス・リアリティ)」は、日常的現実であり、それに対応するのは、覚醒時の合理的意識です。

合理的意識は言語的で、「二元的」な対立の世界であり、排除や権力が存在します。

「ドリームランド」は、「夢」のリアリティですが、プロセス指向心理学では、夜の夢の中だけではなく、覚醒時にも常に存在して、身体症状などとして現れると考えます。
そして、この「夢」=「身体」的存在を「ドリームボディ」と呼びます。

「ドリームランド」には、「二元的対立」ではなく、「二極の交流」があります。

「ドリーミング」は、言葉やイメージの種となる「センシェント(微細な)」な意味の「エッセンス」の世界であり、その意識です。
ジェンドリンが、「フェルトセンス(感じ取られた意味)」と表現したものとほぼ同じです。
「センシェント」な意識は瞑想的な意識、変性的意識です。

この意識・リアリティは、覚醒時も含めて、一日中、常に存在しています。
身体としては、インド神智学の概念である「サトル・ボディ」が対応します。
この世界は、「非二元的」な一つの存在です。

「ドリーミング」という名称は、アボリジニーの「ドリーム・タイム」の影響を受けています。
「夢の創り手(ドリームメイカー)」とか、「大きな自己」とも呼ばれます。

また、ミンデルは、第4のレベルとして、自覚的な「プロセス」を考えます。
これは、3つのレベルの間を移動する自覚的意識です。

「ドリーミング」を対象としたワークでは、直接「エッセンス」を見つけてそれを感じることもあれば、夢のイメージなどからその「エッセンス」へ遡ることもあります。
そして、次に、それを「展開」して、イメージや言葉にしたり、擬人化して会話したりするのです。

「ドリーミング」の次元は、「一次プロセス」、「二次プロセス」の分離以前の次元です。
ですから、この次元を含むワークでは、「一次プロセス」によって「二次プロセス」を統合するとか、「二次プロセス」によって「一次プロセス」を相対化したりするとは考えません。
「夢の創り手」である「大きな自己」となって、その観点から全体を見て、「プロセス」を進展させることを促します。


<シャーマンズボディ>

ミンデルは、著書「シャーマンズボディ」で、プロセス指向心理学にシャーマニズムの思想や技法を取り入れる一方、シャーマニズム、特に、カルロス・カスタネダの思想をプロセス指向心理学の立場から解釈しています。

まず、ミンデルがシャーマニズムの特徴とするのは、プロセス指向心理学が「ドリームボディ」と呼んだ「夢=身体」が、周囲の世界と密接に結びついていると考える点です。
そして、この周囲の世界、部族の希望と結びついた身体を、「シャーマンズボディ」と呼びました。
この「シャーマンズボディ」は、「ドリームボディ」よりも、強くトランス状態と結びついています。

ミンデルは、シャーマニズムが、自然を含めた周囲の世界が、夢見られているものであり、また、一種の知性であると考えていると理解し、次のように書いています。

「アボリジニーの考え方によれば、…精霊たちは生きていて、今ここで起こっている出来事を夢見ていると考えられているのである」
「シャーマニズムは、周囲の世界が独自の知性を持ち、それもまたあなたの一部であるということを想起させてくれる」

ミンデルは、カスタネダの言う「第二の注意力」を、自我が締め出すものへの集中力、思いがけないプロセスに対する注意力、夢見の世界への鍵であると言います。

そして、カスタネダの言う「盟友」は、「二次プロセス」に対応する存在を、敵対的に受け止めない姿だと解釈し、次のように書きます。

「対立的な局面を克服すべき敵とは考えず、自分にとって最も力強い盟友となる潜在的な可能性を持つものとして理解する」

ですから、ミンデルは、「盟友」と自己を統合するべきもとだと考えます。

「自分が盟友に、盟友が自分に似てくることは、あなたが以前より統合され、自己の全体性を生き始めたことを示している」

ですが、「二次プロセス」を敵対的に考えないプロセス指向心理学の考え方は、カスタネダのトルテックよりも、サージ・カヒリ・キングのフナに近いように思います。

また、ミンデルは、カスタネダ(ドン・ファン)が言う「心ある道」を、「ドリーミング」に従う道であると解釈します。


<ワークと自覚>

ミンデルは、プロセス指向心理療法の手法には「自覚」だけしかないと書いています。

ですが、「自覚」にも様々な種類があり、具体的には様々な対象と方法があります。

ワークの基本的な方法は、特定の対象を選んで、それを十分に感じること、そして、それらになったり、それらの立場から考えたり、それらを擬人化してコミュニケーションをとって、その正体や希望などを尋ねたりすることです。
あるいは、それをイメージや動作などの様々なチャンネルで表現したり、物語として展開したりします。

もちろん、これらは、半覚醒・半夢見の意識の状態で行います。
また、日常生活の意識に戻って、以上の体験がどのように役立たせることができるかを考えます。

トランス的状態で、擬人化してコミュニケーションを行い、物語として受け止める点で、シャーマニズムの方法と共通点があります。

プロセス指向心理学のワークは「プロセス・ワーク」と総称されますが、その対象や方法によって、様々な名称が存在します。

以下、シャーマニズムと関連性のあるプロセス指向心理療法の「ワーク」の種類をあげて、簡単に説明します。


<ドリームボディ・ワーク>

一人で内面を対象にして行うワークは、「インナー・ワーク」と総称されます。
これには、以下のような様々なワークがあります。

夢のイメージや身体症状を対象にしたものは、「ドリーム・ワーク(ドリームボディ・ワーク)」です。
夜見た夢の続きを見たり、登場人物や気になるものを対象にして展開したりします。
身体の症状、痛みや慢性症状も「ドリームボディ」の表現と考えて、それを対象とします。

「ドリーム・ワーク」を二人で行うことは、「共に作り出すドリーミング」と呼びます。
これは、解釈者と一緒に夢見し、解釈するワークです。


<センシェント・ワーク>

「ドリーミング」の次元にある漠然とした「センシェント(微細)」な感覚、意味の「エッセンス」(種)を対象にするワークは、「センシェント・ワーク」と呼ばれます。
これは、ユージン・ジェンドリングの「フォーカシング」とほぼ同じです。
この「センシェント・ワーク」は、一種のトランス状態が求められます。

「センシェント・ワーク」では、直接「エッセンス」を見つけてそれを感じることもあれば、夢のイメージなどからその「エッセンス」へ遡ることもあります。
そして、次には、それを「展開」させます。
つまり、イメージや言葉にしたり、擬人化して会話したりするのです。


<フラート・ワーク>

プロセス指向心理学では、「ドリーミング」、「ドリームランド」、「合意的現実」の3つのリアリティ間に存在するものがあって、これらを対象とするワークも行います。

「ドリーミング」と「ドリームランド」の間にあるとされるのは、「フラート(フラッシュ・フラート)」で、これを対象とするのは「フラート・ワーク」です。

「フラート(魅惑するもの)」は、ふっと瞬間的に魅力を感じるもの、一瞬、心をよぎるものです。
あるいは、視覚で言えば、周りを見渡して、目を引くもの、なぜが気になって魅力を感じるものです。
ミンデルは、「フラート」がはっきりしない願い事に対する返答だとも書いています。

「フラート・ワーク」でも、まず、「フラート」の「エッセンス」を感じて、その後、展開します。


<秘密のドリーム・ワーク>

一方、「合意的現実」と「ドリームランド」の間に存在するものは、「ドリームドア」です。
これは「ドリームランド」への入口です。
これを対象とするのは「ドリームドア・ワーク」、あるいは、「秘密のドリーム・ワーク」です。

「ドリームドア」は、視覚的には、周りを見渡して、継続的に注意を引いて離さないものです。
会話の中では、今、ここ、私でない誰かとして語られるもの、繰り返し力説する話題だったりします。
他にも、不完全な文章、混ざる外国語、繰り返される言葉、思い出せない言葉、誇張されるもの、良く浮かぶメロディなども、「ドリームドア」かもしれません。

「ドリームドア」を対象にすると、夜に夢を見ない人でも、あるいは、夜に見た夢を対象としないでも、「ドリームランド」に入っていくことができます。

シャーマンが、気になる植物や物(パワーオブジェクト)を見つけるとそれを拾って、トランス状態でその魂(スピリット・ヘルパー)とコミュニケーションを行います。
シャーマンにとって、「パワーオブジェクト」は、一種の「ドリームドア」ではないでしょうか。

また、「ドリームドア」のワークもそうですが、日常生活を夢と捉えて、そのどこかに焦点を当てていくワークを、「秘密のドリーム・ワーク」と呼びます。
例えば、過去の記憶を夢と捉えたりして、それらとワークすることができます。

ハワイのネオ・シャーマンであるサージ・カヒリ・キングは、こういった夢見を勧めています。


<人間関係のワーク>

一人で内面に向かう「インナー・ワーク」に対して、人間関係を対象とするワークは「人間関係のワーク」と総称されます。
日常を対象にする「秘密のドリーム・ワーク」にも、これがあります。

「人間関係のワーク」で重視され、対象とされるのは、転移、投影、逆投影、「ランク(権力)」、「ドリーミング・アップ」、「シグナル」、「エッジ」、「ビッグ・ドリーム」、「センシェントなもつれ」、など数多くあります。

「ドリーミング・アップ」は、ある人の夢や無意識的な行為が、相手を刺激して感情を作るという作用です。

「シグナル」は、人が会話でコミュニケーションしている時に、本人が意図せずに、会話の内容と違うメッセージを、言い方や表情、動作などを通して送っていることがあります。
これを「ダブル・シグナル」と表現します。
こういった「身体シグナル」も、人間関係の中で表現される「夢」と言えます。
シグナルを対象としたワークは、「シグナル・ワーク」と呼びます。

また、社会全体との関係を対象とする場合は、「コミュニティ・ワーク」と呼ばれます。


人間関係にも「エッジ」があって、特定の人間に対して、何らかの感情から自分を制限している壁です。
「エッジ」を対象とするワークは「エッジ・ワーク」と呼ばれます。

ある人との長期的な関係を、最初の大きな体験の記憶や夢が規定する場合、その体験や夢を「ビッグ・ドリーム」と呼びます。
ミンデルは、それを一種の「神話」であると言います。

「センシェントなもつれ」とは、人間関係の中で、特定の誰かに属するような形のはっきりしたものではなく、関係の中に微細な雰囲気として存在するものです。
これを対象にするワークは、相手の体に触れていき、ある場所に何か感じたら、それに集中する方法で行います。

シャーマンが、部族の中で意識的に共有されていない問題を、トランス状態で物語として明らかにして、解決することがあります。
これは、「秘密のドリーム・ワーク」や「人間関係のワーク」、「コミュニティ・ワーク」の一種だと言えなくもありません。


<ワールド・ワーク>

「ワールド・ワーク」は、世界的に普遍的なテーマ(人種や男女の差別など)を取り上げて行う一種のグループをセラピーです。
グループをセラピー対象の個人と同様に捉えるのが特徴です。

個人のセラピーでは、「一次プロセス」、「二次プロセス」、「エッジ」を意識して、最終的に「ドリーミング」の観点に立ちます。
同様に、グループ対話では、主流派と非主流派、あるいは、発言されない意見(ゴースト・ロール)、話が進まなくなる「エッジ」などを意識しながら、「場」としての癒しのプロセスを進行させます。

この時、主流派と非主流派を同等に扱うことを「ディープ・デモクラシー」と呼びます。

一般に、部族社会では、こういった話し合いのファシリテーターは酋長です。
ですが、語られない、意識されない、非主流派や個人の問題は、無意識的なものであって、それをトランス状態の中で物語として明らかにするのはシャーマンの役割でもあります。


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