ケルトのシャーマン的神話 [シャーマニズム的な神話とコスモロジー]

ケルト人はゲルマン人が大移動する前にヨーロッパに住んでいた先住民です。
ケルト人はインド・ヨーロッパ語族に属しますが、その宗教や神話については、あまり良くわかっていません。

ケルト人は農業・牧畜文化を持っていましたが、古層には狩猟文化の残存も見られます。
そして、そのコスモロジーには、シャーマニズムの影響も見ることができます。


ケルト神話では、世界の中心に生えるイチイが世界樹であり智恵の樹です。
イチイの樹の果実が泉に落ちて、それを食べた鮭が智恵を得ました。
また、この樹は魂の樹をも呼ばれます。

ケルト人は、馬を聖なる動物として重視しました。
ケルト人にとって、魂を天に運ぶのは馬です。
ケルトでは、「エポナ」や「リガントーナ」のような馬の女神が重視されますが、彼女達は死者を乗せて他界に運びます。

ケルトの地母神(モーリーガン、マトロナ、ブリギット…)とカップルとなる男性神は、動物の主である鹿の角を持つ神「ケルヌンノス」、あるいは、祖神の「ダグダー」です。
ケルヌンノスは冬に地下で地母神と交わり、春には角をはやして地上に現れます。 ケルヌンノスは、「動物の主」のような存在です。

ケルトの重要な神器に、「ケルトの大釜」と呼ばれるものがあります。
至高神である「ダグザの大釜」とも呼ばれます。

アイルランドやウェールズの神話伝承では、これは豊穣と再生の象徴です。
つまり、食物を生み出し、死者を生き返らせます。

また、予言と知恵の象徴でもあります。

大釜には、生贄の血を注いだり、その中で溺死させたりしたという伝承もあります。

おそらく、大釜は、シャーマニズム世界観で「動物の女主」が持つ、動物を無限に産み出す袋や鉢のケルト版でしょう。
また、大釜は、聖杯伝説の聖杯の観念のもとになった要素の一つでもあります。


ケルトの司祭・神官は「ドゥルイド」と呼ばれ、様々な儀礼や予言を司りました。
ドゥルイドはシャーマンではありませんが、ドゥルイドの中にはシャーマン的な側面を保持している者もいました。

鹿の角の付いた頭飾りが見つかってので、鹿に変身するシャーマンの存在が推測されます。
また、アイルランド南部の偉大なドゥルイド、モグ・ルートは魔術師で、雄牛の皮と鳥の頭飾り・翼を身につけて、空を飛ぶと伝えられています。
他にも神話に伝えられるあるドゥルイドは、鳥によって神託を得たりしたとされます。

伝統的なケルトの宗教(ドゥルイディズム)は初期近代に消滅したと思われます。
ですが、しばらくして、その復興運動が起こり、現代では多数のネオ・ドゥルイディズムの団体が存在し、オーディニズムやウィッカなどのネオ・ペイガニズムと連動した活動を行っています。


アーサー王神話群にも出てくる魔術師の「マーリン」には、ドゥルイディズムとキリスト教の習合によって生まれた伝説的人物です。
「マーリン(ミールディン、メルジン)」という名前は、「メルクリウス」(シャーマン神であったヘルメスと習合したローマの神)から来ているのかもしれません。
彼の伝説にもシャーマンを思わせる要素があります。

マーリンは、鳥の姿で現れた精霊を父にして生まれます。
彼はアーサー王などに仕え、様々な予言をしました。
彼は金の竪琴で歌う詩人でもありました。

ですが、戦争で人が死ぬのを見て精神を病み、森の中に籠って動物達と暮らして、様々な動物に変身しました。
冬の間は妹と共に館に暮らし、夏には森を駈けました。

様々な動物に変身すること、予言や竪琴は、シャーマンの特徴です。
マーリンにはケルヌンノスの特徴も投影されています。

マーリンは、湖畔の女の精霊を愛し、彼女に病気治療や動物と話をする方法、雨の降らせ方や魔法を教えました。
ですが、彼女に教えた魔法によって、彼女のもとに永遠に閉じ込められてしまいました。
病気治療、動物の言葉、雨乞いは、シャーマンの典型的な特徴です。

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