アボリジニのコスモロジーと高位イニシエーション [伝統文化のコスモロジー]

オーストラリアの原住民のアボリジニは、世界でも最も古い文化を残してきた人々の一つです。

アボリジニの社会は、男性も女性も多段階のイニシエーションを備えていて、「ドリーミタイム」と呼ばれる霊的次元に深く同調するように、生涯をかけてその成長を目指します。

アボリジニの文化は人類の原型的な文化ですが、精神的な側面では完成された文化でしょう。


<トーテム先祖の創世神話>

アボリジニの文化は、トーテミズムの特徴を持っています。

「トーテム先祖」は、特定の氏族の先祖であり、特定の動物や植物、天体、自然などの先祖でもあり、両者の魂がそこに帰り、そこから生まれる存在です。
「トーテム先祖」は、神話の時代に人間の姿になったり、動物の姿になったりしましたが、その性質は、人間には内面に、動物には外面に与えられます。

ただ、アボリジニには、この氏族のトーテム以外にも、性別(母系半族、父系半族)に関わるトーテムと、「パワー・アニマル(守護霊)」としての個人のトーテムがあります。

また、アボリジニにおいては、トーテムは、人間を動物だけでなく、土地と強く結びついています。
アボリジニの神話では、「トーテム先祖」のは、多くは地下から現れて(一部は天から)、長い旅をし、地形を作り、聖地を作り、名づけを行い、法(タブー)と儀礼をもたらしました。

そして、人間と動物を生み、また、「霊的子供」を生みました。
「霊的子供」は、水場などにいて、近くを訪れた女性の中に直接入ったり、男性が狩る動物の中に入って食されることで女性の中に入ったりして、人間の赤ん坊として生まれます。

「トーテム先祖」が旅した道は、「ソングライン」とも呼ばれ、これに沿って歩いて狩りを行います。
また、この道は交易のネットワークにもなりました。

聖地を多くは、井戸や泉などの水場であり、そこは人間が生まれ、死者が一旦戻って行く場所です。
また、聖地は、動・植物を殺さないタブーの場所でもあります。


アランダ族の神話では、原初に、水溜りに胎児のような原人間達が、つながった状態で存在しました。
また、「トーテム先祖」が大地の下で眠っていました。

「ドリームタイム」が始まると、この原人間は、大地から生まれて、放浪して大地を形作りました。
そして、「トーテム先祖」がこの原人間を引き離して、口・目・鼻を開けました。
こうして人間が誕生しましたが、最初の人間達は文化を作って英雄になりました。
また、「トーテム先祖」は、その歩んだところどころに「霊的子供」を残しました。

「トーテム先祖」は地下へ帰りましたが、彼らが地上で誕生した地と帰還した地は、祭儀の場所となりました。
アボリジニが持っている「チュリンガ」という祭儀は、この「トーテム祖先」の通った道や宿の場所が表現されています。

別の「トーテム先祖」の神話では、眠っている「トーテム先祖」の体にトーテム動物達が入ったり、体からトーテム動物達が生まれたりします。
そして、人間は、「トーテム先祖」の脇の下から生まれます。
また、「トーテム先祖」が「チュリンガ」になり、その中に「霊的子供」がいます。


このように、「トーテム先祖」は、各氏族にとっての霊魂、文化、大地の環境の創造力そのものであり、その原型的存在です。


<虹蛇>

北部、中央部など各地の諸部族は、様々な名前で呼ばれる「虹蛇」を信仰しています。
「虹蛇」は、生命を与える水の化身であり、創造と豊穣、霊魂の根源的存在です。

「虹蛇」は、両性具有的存在ですが、その外的形態は男性(男根)であり、内部は女性であるとも考えられています。
また、水晶との対比した場合には女性原理とされます。

「虹蛇」は、大地と宇宙のエネルギーであり、池の底に住み、大地と天空を結びます。
「ドリームタイム」には、雨を司って、洪水をもたらしました。

クンウィンジク族の神話によれば、原初の創造的存在である「インガルナ」が「虹蛇」を生み、「虹蛇」が万物を生みました。

ある部族の神話では、「虹蛇」から生まれた口のない原人間が、大地を作り、「霊的子供」を残して、「虹蛇」に戻りました。
また、ある部族の神話では、「虹蛇」が、大地を作り、魚を作り、精霊達を生みました。

部族によっては、「虹蛇」は、成人イニシエーションで、人を飲み込み、吐き出します。
部族によっては、儀礼やうなり板などをもたらした存在でもあります。

ちなみに、アボリジニは、人間のヘソの奥に「虹蛇」が眠っていて、額からその力を放つと「強力な眼」と呼ばれます。
この肉体内の「虹蛇」は、インドのクンダリニーと同じでしょう。
アボリジニ文化には、南インドとのつながりがあります。


<宇宙像と死生観>

アボリジニの至高の神々は、東部などでは、「天空の勇者たち」、「万物の父」などと呼ばれる存在です。
天空は石英に満ち、この「天空の父」の口にも石英が満ちています。

アランダ族の神話によれば、この神は「偉大な父(クンガリチャ)」と呼ばれます。
この神は至高神的存在ですが、人間に無関心、地上や文化などの創造とほとんど無関係な存在です。
ですが、部族によっては、「天空の父」が地形や人間を作ったとする場合もあります。

一方、北部などの諸部族では、「多産なる母」、「万物の母」などと呼ばれる存在の信仰があります。

アボリジニは、「割れ目のある水晶(虹が生じる水晶)」が創造の起原となる存在であると考えます。
これは「天空にある水晶の玉座」とも表現されます。

その「透明な水晶」の部分は、「万物の父」です。
それから生まれる「虹」は、「万物の母」であり、「虹蛇」であり、諸々の先祖を生む存在であす。

・天空の父:水晶
・万物の母:虹

アボリジニの世界観によれば、3つの世界があります。
そして、人間の魂は、それぞれに対応する3つの部分からなります。

・死者の世界        :天空  :男性原理
・まだ生まれていない者の世界:水溜り等:男性原理
・生者と死につつある者の世界:地上  :女性原理

「死者の国」は、天上の星団(天空の水溜り)にあります。
死者は、「霊的なカヌー」に乗って、「死者の島」を経て、「死者の国」に至ります。
人間の魂の循環は、水の循環(天・雨・水場)と重ねられます。

「男性原理」は、「死の原理」であり、肉体では「精子」に象徴されます。
後述するように、長老は、多段階のイニシエーションを経て、天空の世界に一体化していきます。


<ドリームタイムとドリーミング>

アボリジニは、神話的時代を「ドリームタイム」と呼びます。
「原初の時」、「昔々」という意味ですが、「物語」という意味もあります。

ですが、「ドリームタイム」は、現在でも存在して働いているので、「あの世(根の国)」といった意味合いもあります。
また、それが地上に現れることも意味します。

「ドリームタイム」とほとんど類似した言葉に「ドリーミング」があります。
「ドリーミング」は、そこにいる「トーテム先祖」を意味します。
また、「トーテム先祖」が生んだ「霊的子供」は、「受胎ドリーミング」と呼ばれます。

さらには、「ドリーミング」は、これらに関する信仰をも意味します。

ただ、「ドリームタイム」はオーストラリアの人類学者の翻訳であって、原語では、例えば、有名なアランダ族の場合は「アルチェリンガ」です。


「ドリームタイム」は、地上世界(日常の認識世界)を作っている基盤となる世界です。
地上の形態を形成する創造力であり、その原型です。

「ドリームタイム」の世界は、大地の中に種や根があるようなイメージで捉えることができます。
この「種」は、一種の「イデア」、「元型」のような存在です。
これはワルビリ族の言葉では、「グルワリ(トーテムデザイン)」と呼ばれます。

「ドリームタイム」から地上世界が生まれることは、内的・心的・潜在的なものが、外的・物質的・具体的なものになるという創造のプロセスです。

あるアボリジニは、白人に対して、人間や動物は「ドリームタイム」の「トーテム先祖」の写真(つまり、写像)なのだと、説明しました。

アボリジニの「ドリームタイム」と地上の関係は、日本語の「根の国(常世)」と「現世(ウツシヨ」の関係と同じです。


アボリジニは、日常で現実のカンガルーを見ている時も、常にその背後にある、カンガルーを形作っている潜在的な力である「ドリームタイム」のカンガルーを感じています。

これはプロセス指向心理学が言う「24時間の明晰夢」と似ています。
意識的な言葉やイメージの背景にある、直観的、フィーリング的なものに注意をしているのでしょう。


<高位イニシエーション>

アボリジニの社会では、男性も女性も、死ぬまで多数のイニシエーションを行います。
ある部族の男性には、十数段階のイニシエーションがあって、それらを通過することで高位の長老になります。

擬死を体験するイニシエーションを体験するごとに、「死」の世界、つまり、「ドリームタイム」の世界、潜在意識の世界に、自己の意識を深めていくのです。


最初の成人イニシエーションでは、夢を見ながらそれを自覚する覚醒夢の見方や、ダンスによってトランス状態に入ることも学びます。

男性は、成人のイニシエーションでは、世界の他の地域でも見られるように、男性器の包皮切開を行います。
ですが、これに続くイニシエーションでは、尿道切開を行う場合があります。
これは、女性のように小便を放つようになるため、つまり、両性具有的存在になるためのものです。

また、イニシエーションで、他にも肉体を傷つけることがありますが、これは、「ドリームタイム」のエネルギーの象徴であり、先祖とのつながりの証となります。

女性の成人イニシエーションでは、水の中に沈められる体験をします。
これは世界の他の地域でも見られるもので、浄化の儀礼とも考えられますが、ひょっとしたら、アボリジニにおいては「虹蛇」や「霊的子供」と関係するのかもしれません。

成人した女性には、体を赤く塗ったり、白い三日月を描いたりすることもあります。
これは、月経を月から受ける存在になったことを示します。


アボリジニの社会では、先祖とのコミュニケーションは、高位の長老が担います。
高位イニシエーションは、天空の英雄とトーテム先祖が司ります。

高位イニシエーションは、天空、地上、地下の3つの領域を自由に往来できることを目指します。

高位の長老になることは、天空のエネルギーと一体になることです。
死に臨んだ長老は、青空を眺めて、そこに見える光の粒子と一体化する瞑想を行います。

アボリジニでは、死者が生前にどの位階まで進んだかによって、その人間の埋葬法が変わります。

高位イニシエーションでは、水晶を体に埋め込まれたり、後頭部から脳中枢に槍を突き刺されたりといった体験をすることがあります。
実際に、例えば舌に水晶を埋め込む場合もあります。

高位の長老は、トランス状態で、糸が絡み合ってできた網と、そこに夢やビジョンがぶら下がっているのを見ます。
ですが、恐れがあると、それらが見えなくなります。
また、アボリジニが、狩猟民から牧畜民に変化すると、やはり霊視の力を失うそうです。

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